こんにちは。
寒さの底はついたんだと思います。やっぱり冬は寒かったですね。
梅はさらに開花が進んでいるようです。
今日は誤嚥性肺炎について3回目です。
前回までに、「人は誤嚥したくらいではそうそう肺炎にはならない。弱っている人が誤嚥したことに関連して発症した肺炎が誤嚥性肺炎である。よって誤嚥性肺炎の治療は弱っている状態にもアプローチしなければ片手落ちである」という話をしました。今回は誤嚥性肺炎のリアルについてお話しします。
誤嚥性肺炎の患者さんに対し、弱っている状態にアプローチせず肺炎の治療だけを行うことはしばしばあります。それには2つの理由があります。ひとつは弱っている状態は経過とともに改善が見込まれる場合があるからであり、もうひとつは弱っている状態にアプローチしても改善が見込めないことが多いからです。
改善が見込めないとはどういうことなのか、もう少し掘り下げてみます。前回、弱っている状態の代表として『栄養状態不良』を取り上げました。今回もそれを続けます。
栄養状態不良の原因の多くは栄養素が足りないというより栄養素を利用できないことによる、というのは想像に難くないと思います。生産工場に例えるなら、原材料が足りないからではなく生産ラインが機能しないから製品ができない、というわけです。逆に言うと、いくら原材料を仕入れても生産ラインが機能しなければ製品はできない、となります。
人体においてはこの生産ラインに当たる部分を『代謝』と呼んでいます。代謝がうまく機能しなければ、いくら栄養素を投入しても栄養状態は改善しない、というわけです。
そう考えると、前回お話しした『人工栄養療法』というのは単に栄養素を注入している(原材料を仕入れている)だけであり、代謝そのものを改善させている(生産ラインの機能を改善させている)わけではありません。『栄養補充療法』と言った方が適切だったりします。そのあたりに現代医学の限界があるのです。
代謝が低下する原因は様々です。代表的なところは進行癌とか、慢性臓器不全とか、難病とか、重度の認知症とか、老化などがあります。代謝の障害によって体が弱っていく状態を『悪液質』と呼んでいます。老化による悪液質は『老衰』です。残念ではありますが、どれをとっても改善は見込めそうにありません。
もう一度生産工場のたとえに戻ると、生産ラインが機能しないときに原材料を大量に仕入れても意味がありません。というか、余分な原材料を保管するのも大変ですし、保管庫からあふれ出すことにもなるし、原材料が腐敗したりもします。要するに有害です。
同様に、代謝機能が低下している人に原材料である栄養素を投与しても、それをうまく利用できないのなら有害です。結果的に嘔吐したり、下痢したり、むくんだり、胸水や腹水が溜まったりします。苦痛を増やすことは間違いありません。命を縮めることもあるかもしれません。
そんなわけで、『栄養状態不良』によって弱っている誤嚥性肺炎患者さんに『人工栄養療法』という名の栄養補充を行っても、状態は改善することはあまり期待できず、悪化させることすらあるわけです。
治療としては片手落ちだとしても、弱っている状態に対するアプローチは行わず、肺炎の治療だけを行うことが多いのはこのためです。
さらに続けます。
ここで、「片手落ちの治療ならしなくてもよいのではないか?」という疑問が発生します。
一般的な肺炎(市中肺炎と言います)患者さんに肺炎の治療を行った場合と行わなかった場合では、治療を行った方が有益なのは間違いありません。一方で、誤嚥性肺炎の患者さんに肺炎の治療だけを行った場合と肺炎の治療すら行わなかった場合では、実はあまり差がないのです。なぜなら治療として片手落ちだからです。
ここから、「誤嚥性肺炎の患者さんに肺炎の治療は行わない場合がある」ということが肯定されるわけです。このことは日本呼吸器学会の肺炎診療ガイドラインにも明記されています。
なんともすっきりしない残念な帰結になってしまいました。
いのちの儚さ、不条理さを物語っているとも言えるかもしれません。
今日はここまでにします。
ではどうすればよいのでしょう? 次回(誤嚥性肺炎最終回の予定)お話しします。
