認知症についてのお話

こんにちは。冬が本格化してきました。

コロナ禍も第3波が吹き荒れています。注意した生活を続けましょう。

 

今日は認知症についてのお話をしたいと思います。

多分に私見を含んでいるのでご注意ください。誰かを傷つける意図はありません。

 

「認知症の人は独特な世界で生きている」と言われることがあります。科学的な表現ではないかもしれませんが、その通りだと思っています。

そしてその世界は時空がゆがんでいます。もちろん感覚として。

時間は規則正しい進み方をしていません。「1日が24時間で回っている」という物理法則が成り立たないのです。朝が来たと思ったらすぐ夜になったり、なかなか夜がやってこなかったり。

そして、いとも簡単に過去にタイムスリップすることもできます。(未来にタイムスリップしているかどうかはわれわれ凡人には未来を知ることができないので評価不能です。)

空間的には、例のどらえもんの『どこでもドア』がそれこそどこにでもあって、いろんなところにつながっている(と感じられる)のです。

 

しかし悲しいかな、現実的には物理法則を乗り越えることはできません。リアルワールドでは時間は規則正しく進み、どこでもドアは存在しません。

 

 

では、このような世界観を持つ認知症の方とどのように接すればよいでしょうか。

認知症の方にとって最も望ましいのは、他者にそういう世界観をすべて受け入れてもらうことだと思います。

そういう世界観を持ったまま日常生活を送れたらいいということです。

そのためにはそういう『場』を作らなければなりません。その『場』にはソフトとハード両方が必要です。

『場』は大きければ大きいほど認知症の人の暮らしは豊かになるでしょう。

 

一般的にはその『場』は介護施設ということになりますが、これを『街(タウン)』にまで発展させた施設もあります(Share金沢など)。

しかしながら都内でそこまでの『場』を作ることはそれこそ物理的に困難です。リアルワールドは物理法則に縛られています(経済的にも)。

どうしても小規模な介護施設を多数作る、という方法論にならざるをえません。

 

小規模な介護施設は空間的にも人員的にも限られているので、残念ながら認知症の方の世界観を余すところなく展開していただくわけにはいきません。そこで認知症の方の世界とリアルワールドとの間に折り合いをつける『妥協点』を見出さなければならないのです。

万人が共感できる『妥協点』というものは存在しません。マンパワーとコストが大きく影響します。

そして認知症の方のご家族と『場』を提供する介護スタッフとの間に、双方納得のいく『妥協点』を作り出すのは本当に難しいことです。

 

 

在宅で認知症の方と暮らす(介護する)ときにも「認知症の人の世界観をどこまでリアルワールドで容認できるか」ということが最大の課題になります。これは想像以上に困難を伴います。特にひとりで介護する(いわゆるワンオペ)場合はそれこそ命がけです。

 

では具体的にはどうすればよいでしょうか?

まずは何はともあれ介護保険サービスを最大限利用することです。デイサービス、ショートステイなどをできる限り利用するべきです。

認知症介護に重要なのは、介護者がリアルワールドに完全に戻る時間を作り出すことです。

 

次に重要なのは薬物療法です。ここで言う薬物療法は『抗認知症薬(通常コリンエステラーゼ阻害薬を指します)』のことではありません。『抗精神病薬』に分類される薬剤です。

認知症という病気に対し、『抗精神病薬』が有害であること(副作用の発生、様々な疾患の併発、ときに命を縮めるなど)は間違いありません。しかしながら、認知症の方の世界観とリアルワールドとの間に『妥協点』を見出すためにはしばしば必要になります。

 

この『妥協点』のない在宅介護生活はあり得ないと考えます。もちろん『妥協点』は絶対的な基準はなく、個々で試行錯誤しながら決めるものです。薬剤の使用に関してもきめ細やかな調節が必要です。

薬物療法によって『妥協点』を作り、介護者がリアルワールドに完全に戻る時間を作り出すのです。

薬物療法は認知症の方だけのものではないのです。認知症の方と介護者(多くはご家族)との関係性維持のための治療なのです。