こんにちは。
夏真っ盛りですが、皆様はいかがお過ごしですか。当院もこのお盆期間に夏季休暇を設定しております。猛暑・酷暑の中活動するためにはしっかり休息をとることも必要ですね。
今日はTime Limited Trial というものについて考えてみます。横文字ですみません。翻訳するとお試し期間というような意味になるわけですが、いまいちしっくりこない(内容に比して軽々しいと感じてしまう)ので、業界では横文字でそのまま使うか、TLTという略語を使ったりします。以下ここではTLTという略称を使わせていただきます。
これは以前のブログ記事と関連していますので、よろしければそちら(「経過観察」について)もご参照ください。
TLTとは期間を限定してなにがしかの行為を試してみる、という意味になるわけですが、医療業界においてはこの「なにがしかの行為」は通常「生死を決定づけるような医療行為」を意味することが多いです。気軽なものではないのです。そんな重要な医療行為をどうして期間限定にするかというと、その行為が効果的ではない可能性が高いと医学的に推測されるからです。すなわち、生命維持が困難な状況に陥っているからなのです。
TLTの考え方自体は非常にシンプルで目新しいものではありませんが、これをひとつの医療行為として医学的に検証するようになったのは21世紀以降のことです。主に集中治療(critical care)の領域で取り扱われました。一般的に医療行為の研究は、その行為が患者さんの病態を改善するかどうかを検証するものであり、患者さんが良くなれば(究極的には生存期間が延長すれば)その医療行為は効果的である、と評価されます。
しかしながら、このTLTはそもそも患者さんが回復しない可能性が高いと評価されているときに行う行為であり、患者さんが良くなることを目指したものではありません。ICU滞在期間が短縮したとか、効果的でない延命処置を回避できたとか、苦痛が軽減したとか、家族と過ごす時間を確保できたなどが評価基準や目標(outcome)になるわけです。
このような研究がなされることはある意味で医学の進歩、社会の成熟ととらえてもよいのではないでしょうか。
そんなわけで、昨今では在宅緩和ケアの領域でもこのTLTという考え方・手法を応用するようになっています。「苦渋の決断としての経過観察」(注:「経過観察」について をご参照ください)が必要な状況で、何もしない・ただ見守るだけということに対するご家族や関係者の苦痛を軽減する効果はあると思っています。
本人の意思が確認できないとき、推定意思・代理意思によって方針を決めなければならない状況で、考える時間を確保することにも役立つでしょう。
期間限定的だからこそ本人とご家族との濃厚な、貴重な、唯一無二の、忘れることのない時間を過ごせるとも言えると思います。
時間は有限であり、止まることがなく、戻すこともできないからこそ、その『時間』をもっとも効果的に使う方法を模索し、提案しているのです。