こんにちは。
いよいよ8月になりました。小平市に移転してからあっという間の1か月でした。
おかげさまで小平市の患者さんも少しずつ紹介していただけるようになりました。有難いことです。一方で、いまも慕ってくれる西東京市の皆様にはご期待に沿えず申し訳ないと思っております。
今回は「おもいを叶える」ということについて考えてみます。前々回、前回の続きになります。われわれは患者さん・利用者さんのおもいを叶える在宅ケアを提供できているだろうか? という問いにどう考えてどう答えればよいのでしょうか。
「おもいを叶える」ということに関しては、「おもいとは何か?」ということと「叶えられているかどうかはどう判定するのか?」という二つの視点で考える必要があります。そこで最もシンプルなのは、患者さん・利用者さんに直接「あなたのおもいは何ですか? そのおもいは叶えられていますか?」と質問すればよいわけです。答えていただけたらそれで終了です。
しかしながら、在宅ケアの現場では、その質問に対する答が得られないことは多くあります。特にターミナルケアにおいては悲しいことにご本人からの最終的な評価はいただけないという構造的な問題があります。
患者さん・利用者さん自身から直接答が得られないのであれば、患者さん以外の人が判断し答えるしかありません。「おもいは何か?」ということに関しては、他者が想像して(推定意思)、代わりに表明する(代理意思)ということになります。このことを『意思決定支援』と呼んでいます。
意思決定支援に関しては、厚労省をはじめ様々なところで詳しく解説されていますので、そちらを参照ください(資料)。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)においては、事前に代理意思決定者を選定しておくことが有効とされていますが、実際には難しいところです。
一般に、この推定意思・代理意思を表明するのは患者さん・利用者さんのご家族(あるいは親密な関係の方)が適していると考えられています。これは当然のことではありますが、しばしばご家族の意思が反映されることがあり熟慮が必要です。ご家族からの推定意思・代理意思が得られない場合は、関係するケアスタッフあるいは有識者などで話し合う必要があります。この場合は利害関係というものをどう処理するかが重要になります。
「叶えられているかどうか」の判定はさらに難しいです。究極的には本人にしか判定できない問題ですから、少し考え方を変化させる必要があります。
「おもいが叶えられている状態」というのはどんな状態でしょうか? 「幸せだ」とか、「気分がいい」とか、「穏やかである」などと表現してもよいかもしれません。そしてそれは第三者からは、「幸せそうだ」とか、「気分がよさそうだ」とか、「穏やかな様子である」などと評価できることが多いでしょう。これらをまとめて「質の高い時間を過ごせている」と言い換えてみるわけです。
おもいを叶えられているかどうかを第三者が正確に評価することは難しいが、質の高い時間を過ごせているかどうかならそれなりに評価できるのではないだろうか、ということです。この評価軸を『QOL』と称するわけです。
2002年にWHOが「緩和ケアとはQOLを向上させるアプローチである」と定義して以降、QOLをどう評価するかについては世界中で検討されてきています(資料)。それでもなかなかスタンダードな評価法はできていません。なぜなら、QOLは個人差が非常に大きいからです。
今回の日本在宅ケア・サミット2025で東京大学未来ビジョン研究センターの飯島教授が『安心ある在宅療養を目指す我が国独自の「3つのLife」を意識したアライアンス版QOL簡易指標』というタイトルで講演されました。内容についてはここでは触れませんが、在宅ケアにおけるQOLを客観的にかつ簡易的に評価する方法を研究されています。多職種で同時に、それでいて専門性も加味して評価できるツールの開発が進んでいます。
『おもいを叶える在宅ケア』というお題で3回にわたりいろいろ考えてみました。「患者さん・利用者さんにおもいを叶える在宅ケアを提供するよう努力しているのか?」という質問を突き付けられているのだと思います。堂々と「はい」と答えられるよう努力を続けていくしかありませんね。